アタッシュケースに恋した男である。
幼少期の007ボンドアタッシュに始まり、『ゼロハリ』12に『リモワ』5つ、『Peroni』『Renwick』『Bill-Amberg』、諸々合わせると、おそらく30は下らぬアタッシュ道楽。最後にたどり着いたのがこの、フランス国は『DelSey』なるアタッシュケースである。
80年代あたりの品で、前面操作の開閉ロック、全体を包む質感はまるで往時のシトロエンのダッシュボードだ。
ダイヤルロックもフランス車のラジオボリュームを彷彿させ、唯一無二のスタイリングである。
どんな国の、どんなギアとも似ていない、独創極まりて偏屈の極み、持ち手を選ぶのがフレンチの王道、てなもんである。
RSCGの創始者、ジャックせゲラが70年代当時、こいつを引っさげてクライアントをまわり、プレゼンを仕掛けていた姿がふと目に浮かぶ。
俺は、広告マン時代、セゲラの著書『広告に恋した男』に恋した男で、一時期シトロエンBSに乗っていたが、『DelSey』は、日本では見かけなかった。
業界マンは、マディソン・アベニューばりにゼロハリ信仰が根強く、しかしヒラの俺にはアタッシュなんぞ持てるべくもなかった。
出世した課長級以上、なる暗黙が有った時代で、Burberryのバルカラー(ステンカラー)なんぞもその口だった。
フランスのモノには超俗の俗の趣があり、わからんやつには要はなし、と言いながらも、ちょっとはわかってほしい、野暮なこだわり。
モノの威厳やネームバリューには頼れないのだ。
わかるか、わからんか。
似合うか、似合わんか。
このアタッシュに相応しいスタイリングに心ときめく今日このごろである。
それでは又!!